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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)5358号 判決

原告 藤野通大

右訴訟代理人弁護士 藤井勲

同右 山本寅之助

同右 芝康司

同右 亀井左取

同右 森本輝男

右訴訟復代理人弁護士 山本彼一郎

被告 株式会社木本建設工業

右代表者代表取締役 木本勇次

被告 木本幸吉

右両名訴訟代理人弁護士 中嶋邦明

同右 川瀬久雄

右訴訟復代理人弁護士 谷口宗義

主文

一  被告両名は各自、原告に対し金五七一万二、二三三円およびこれに対する昭和五〇年九月二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告両名に対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を被告両名の、その余を原告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

「(一) 被告らは各自、原告に対し金一、四四四万七、五〇四円およびこれに対する昭和五〇年九月二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告ら

「(一) 原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。(二) 訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(一)  事故の発生

昭和五〇年九月一日午後五時一〇分ころ大阪府高石市高師浜二丁目九番五号先交差点において、南から北に向かって進行していた原告運転の原動機付自転車(堺市ひ一四五九号、以下原告車という。)の左側部に、西から東に向かって進行していた被告木本幸吉運転の普通貨物自動車(二トン積みダンプカー、泉四四す二七九八号、以下被告車という。)の右前部が衝突し、その衝撃により原告は跳ね飛ばされて路上に転倒した。

(二)  被告らの責任

1 被告株式会社木本建設工業(以下、被告会社という。)は本件事故当時被告車を所有し、同車を自己のために運行の用に供していた者であるとともに、被告木本は被告会社の被用者であって同会社の業務を執行中、後記の過失により右事故を惹起した。

2 本件事故現場は見通しの悪い、信号機による交通整理の行われていない交差点であって、原告車の進路である南北道路は幅員約六・〇五メートルであり、被告車の進路である東西道路は幅員約三・六メートルであって、交差点手前に一時停車の標識が設置されている。しかるに、被告木本は本件交差点に一時停車することなく、漫然と約一五キロメートル毎時の速度で進入した過失により本件事故を発生させた。

(三)  原告の被った損害

1 受傷

左大腿下端骨折、左下腿複雑骨折(開放性)、左前腕擦過傷

2 治療経過

入院

昭和五〇年九月一日 高石病院に

同月二日から昭和五一年八月八日まで堺山口病院に(三四一日間)

通院

同月九日から同年一〇月二五日まで同病院に(うち実治療日数四六日)

3 後遺症

左足の二センチメートル短縮、左膝、足関節に運動制限があり、著しい機能障害の残存(昭和五一年一〇月二五日症状固定、自賠法施行令別表後遺障害別等級表第八級該当。)。

4 損害額

(1) 入院雑費 一七万〇、五〇〇円

原告の堺山口病院の入院期間三四一日につき、一日当り五〇〇円の雑費を要した。

(2) 休業損害 四六五万〇、九二二円

原告は昭和二三年七月六日生まれの健康であった男子であり、本件事故当時、石油、ガス関係のプラント工事を専門に業とする草野建設工業株式会社に配管工として勤務し、月額平均二〇万二、二一四円の賃金を得ていたが、右事故発生の翌日から昭和五二年七月末日までまったく稼働することができず、収入がなかったので、右賃金額を基礎とし、二三か月分の休業損害を計算すると標記の金額となる。

(3) 将来の逸失利益 一、〇三四万一、五四七円

原告は昭和五二年八月ごろから堺市所在の朝日新聞中安井販売店に勤務し、新聞配達、集金、拡張勧誘等の仕事をしているが月額一六万円程度の収入しか得ていない。したがって二八才から六七才までの三九年間、前記配管工をしていたときの月収二〇万二、二一四円の二〇%を失うものと推定し、年五分の割合による中間利息を控除する年別ホフマン計算法により算出した同人の将来の逸失利益の二八才当時の現価は標記の金額となる。

算式 二〇二、二一四×一二×〇・二×二一・三〇九

(4) 慰藉料 五三六万円

本件事故の態様、原告の受傷、治療経過、後遺症の部位、程度その他諸般の事情をしん酌すると同人が右事故により被った精神的苦痛に対する慰藉料は標記の金額が相当である。

(5) 弁護士費用 一〇〇万円

以上損害額合計 二、一五二万二、九六九円

(四)  損害の填補

原告は被告車加入の自賠責保険から五〇四万円、自動車(任意)保険会社である日動火災海上保険株式会社(以下日動火災という。)から二〇三万五、四六五円合計七〇七万五、四六五円の支払を受けた。

(五)  よって、原告は被告両名に対して、連帯して残損害額金一、四四四万七、五〇四円およびこれに対する本件事故発生日の翌日である昭和五〇年九月二日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告らの答弁

請求原因(一)は認める。同(二)の1のうち被告木本に過失があったとの点は否認するが、その余は認める、2は否認。同(三)は不知。同(四)は認める。同(五)は争う。

三  被告らの抗弁

(一)  本件事故発生につき、仮に被告木本にも原告主張の過失があるとしても、原告にも公安委員会が指定した二〇キロメートル毎時の速度を超過して約三〇キロメートル毎時の速度で、しかも左前方を十分確認せず、交差点を通過直進しようとした過失があり、右過失も右事故発生の原因として寄与しているので、被告らの賠償額算定に当り少くとも二五%の過失相殺による減額がなされるべきである。

(二)  被告らは、原告が自認するもののほかに、治療費三九七万七、五七〇円を堺山口病院等に、付添看護費四七万〇、九七〇円をエンゼル家政婦会に支払っている。

(三)  原告と被告らの代理人である日動火災の従業員訴外甲野一郎との間で昭和五一年一一月二二日原告方において被告らの賠償額を六四八万四、〇〇五円および原告の後遺障害補償費五〇四万円の合算額一、一五二万四、〇〇五円とし、原告は被告らに対しその余の請求をしない旨の示談が成立し、被告らは同額全部を完済しているので、原告の本訴請求は失当である。

四  被告らの抗弁に対する原告の答弁

前記抗弁(一)は否認。同(二)は不知。同(三)のうち、被告ら主張の示談の成立は認めるが、その余は争う。

五  原告の再抗弁

(一)  原告は妻と子供三人を扶養している者であるが、本件事故後は生活費としては日動火災から送金されて来る月額一四万円の休業補償費のみであって、その生活は経済的に極度に窮迫し、自動振替口座を設けていた三和銀行堺東支店からは預金不足から昭和五一年四月二六日の振替を最後に電話代の同振替を断られ、また示談成立後ではあるが同年一二月一三日には町の金融業者から一〇万円を高利で借り受けている事情にある。しかも、法律的に無知であったところ、甲野はそれを奇貨として、本件事故につき、原告の過失が大きいので日動火災としては支払える限度に来たこと、示談すれば後遺症障害補償費の自賠責保険金が貰えるなどと原告に対して虚偽の事実を申述して示談書に署名捺印させたものである。しかも、右示談額は、特に後遺症に基づく損害の填補につき不当に低額である。したがって、本件示談は公序善俗に違反し効果を生じない。

(二)  仮に右主張が理由がないとしても、右示談に際し、右示談額をもって事件を解決する旨の原告の意思表示は、原告が甲野の前記の虚偽の言辞を信じ、示談書に署名捺印しなければ、後遺障害補償費の支払は受けられないものと錯誤に陥り、これをなしたものであるから甲野の欺罔によるかしがあるものであるので、原告は右意思表示を被告らに対し昭和五三年七月二〇日の本件第四回口頭弁論期日において取消す旨意思表示する。

六  原告の再抗弁に対する被告らの答弁

前記再抗弁(一)、(二)はいずれも否認する。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  同(二)の1のうち、被告会社が本件事故当時被告車を自己のため運行の用に供していた者であることは当事者間に争いがない。しかし、被告木本は自己の過失を否認し、被告らは予備的に過失相殺の主張をするので、まず、本件事故発生の状況について検討する。

(一)  前記の当事者間に争いがない事実に、《証拠省略》を総合すると次の事実を認めることができ、右認定に反する適当な証拠はない。

1  本件事故発生現場は幅員約六・〇五メートルの南北に通じている道路と幅員約三・六メートルの東西に通じている道路とがほぼ直角に交差している信号機による交通整理の行われていない市街地の交差点で、いずれの道路も歩車道の区分はなくアスファルト舗装であり、公安委員会が最高速度を二〇キロメートル毎時に制限しており、右事故当時、車両の通行量は閑散としていたこと。

2  原、被告車の衝突場所は本件交差点中央や南寄りの地点で、原告車の左ハンドル付近に被告車の右前部が衝突したこと。

3  本件交差点を挾んで東西道路西側部分と南北道路南側部分との双互の見通しは同交差点南西角に前田方宅の高さ約二・二メートルのブロック塀があって悪く、東西道路西側部分には交差点手前に同進入車に対する一時停車の標識が立っていること。

4  被告木本は東西道路を被告車を空車で約一五キロメートル毎時の速度で運転し、西から東に向かって進行し、本件交差点を直進通過しようとしたが、その手前約三・五メートル付近で警音機を一回吹鳴しただけで、一時停車はせずそのまま進行し、その進入直前右前方約五・四メートルに未だ交差点に進入していない原告車に気付き急制動の措置を採ったが及ばず約二・八メートル進行し、約四・八メートル前進して来た原告車に前認定のとおり被告車が衝突し、原告は原告車と共に跳ね飛ばされて、約五・七メートル右前方の道路端の路上に転倒したこと。

5  他方原告は南北道路を約三〇キロメートル毎時の速度で原告車を運転し、南から北に向かって道路中央やや左寄りを進行し、本件交差点を直進通過しようとしたが、交差点手前で約五メートル余り左前方に交差点に入る直前の被告車を発見したが、同車が停車して進路を譲ってくれるものと軽信し、そのまま右方にやや転把しただけで前進したこと。

(二)  右事実によれば、本件事故は被告木本が一時停止の交通標識を無視して、停車をせずに交差点に進入した被告車運転上の過失により発生したことは言うまでもないが、原告にも指定最高速度を約一〇キロメートル超える速度で見通しの悪い交差点を直進通過しようとし、しかも被告車の動静に十分注意しなかった不注意があり、原告の右過失も本件事故発生の原因となっているといえるので、双方の過失が競合して右事故が発生したものといえ、その過失割合は同被告の過失を七・五とすれば、原告のそれは二・五とするのが相当である。

(三)  そうしてみると、被告会社は自賠法三条本文により、被告木本は民法七〇九条により原告に対し、同人が右事故により被った損害を賠償すべき債務があり、被告両名の右各債務は不真正連帯債務の関係にあるといえる。

三  そこで原告が本件事故により被った損害について検討する。

(一)  《証拠省略》によれば、請求原因(三)の1ないし3に主張のとおり、原告は本件事故により受傷し、その治療経過を経たが、その後遺症が残存し、その程度は自賠法施行令別表後遺障害別等級表第八級に該当することが認められ、右認定に反する適当な証拠はない。(なお、高石病院の入院日を含めると入院日数は三四二日となる。)

(一)  右認定を基礎として損害額の明細についてみてみる。

1  入院雑費

経験則上、原告の入院期間中一日当り七〇〇円の雑費を要したことが認められるので、その三四二日分は二三万九、四〇〇円となる。

2  休業損害

《証拠省略》によれば原告はその主張の生年月日で少くとも本件事故当時は健康な男子で、その主張の株式会社に臨時雇用(ただし、事故発生日の昭和五〇年九月一日から本採用の予定であったが、同日未だ同会社からその旨の意思表示がなされていなかったと認められる。)の配管工として勤務し、同年七、八月支給分の給料で月額平均二〇万二、二一五円を得ていたが、右事故によりその発生日の翌日である同年九月二日から昭和五二年八月末ころまでまったく稼働せず、その間に同会社を退職し同年九月ころからその主張の新聞販売店に勤務し、その主張の仕事をしているが、賃金は月額一三、四万円にとどまっていることが認められる。

右事実によれば原告の休業損害は前記月額二〇二、二一五円の給料額を基礎とし、休業期間を昭和五〇年九月二日から後遺症状固定日である同五一年一〇月二五日までとみて、二七八万五、三四九円と認めるのが相当である。

算式二〇二、二一五×(一三+二四/三一)

3  将来の逸失利益

前認定の事情および原告の後遺症の部位、程度等からすれば同人は後遺症状の固定日の翌日である昭和五一年一〇月二六日(二八才)から六七才までの三九年間労働能力の二〇%を喪失し、それに副う減収があるものと推定され、前記月収額二〇万二、二一五円を基礎とし、年五分の割合による中間利息を控除する年別ホフマン計算法により算出した同人の将来の逸失利益の同日現在の現価は一、〇三四万一、六九五円となり、同人は同額の損害を被ったといえる。

算式 二〇二、二一五×一二×〇・二×二一・三〇九二

4  慰藉料

本件事故の態様、原告の受傷、治療経過、後遺症の部位、程度その他諸般の事情をしん酌すると原告が右事故により被った精神的苦痛に対する慰藉料は四五〇万円が相当と思料される。

5  その他の損害

《証拠省略》によれば原告の堺山口病院等の治療費に三九七万七、五七〇円、付添看護費(エンゼル家政婦会所属の職業付添婦に対する報酬)に四七万〇、九七〇円合計四四四万八、五四〇円を要したことが認められる。

四  以上合計すると原告の損害額は二、二三一万四、九八四円となり、前記二の(二)に説示の原告および被告木本の過失割合等をしん酌して過失相殺しその二五%を減じた一、六七三万六、二三八円が原告の被告両名に対する損害賠償債権額となるが、そのうち七〇七万五、四六五円を原告が自賠責保険および日動火災から支払を受けていることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば日動火災はそのほかに堺山口病院等に治病費三九七万七、五七〇円を、四七万〇、九七〇円をエンゼル家政婦会にそれぞれ支払っていることが認められるので、被告らの弁済額は一、一五二万四、〇〇五円となるので、これを控除すると残債権額は五二一万二、二三三円となる。

五  ここで、被告らの示談成立の抗弁について検討する。

(一)  被告らの抗弁(三)において主張する原告と被告らの代理人甲野一郎との間の示談の成立自体は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば原告の後遺障害補償費は後遺症第八級該当の補償金認定額を被告車加入の自賠責保険会社である千代田火災海上保険会社(以下、千代田火災という。)に対し原告が被害者請求する旨の約定であることが認められる。

(二)  よって、原告の再抗弁(一)について判断する。

《証拠省略》を総合すれば、次の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

1  原告の本件事故に基づく損害金の支払は、事故後当初から日動火災が従業員甲野らに担当させて行ない、治療費、付添看護費等を堺山口病院等の各関係機関に支払うと共に、原告に対しては同人に右事故につき三〇%の過失があるものと考えて、同人の月収を二〇万円とみたうえ毎月一四万円を休業補償費として昭和五〇年九月三〇日から翌五一年一一月五日まで原告の三和銀行堺東支店の普通預金口座に送金して支払っていたこと。

2  原告は妻と三人の子供を扶養して生活していたが、本件事故による受傷のためにまったく稼働できず、生活資金としては前記の日動火災からの送金と、妻の首飾り製造の手内職による月額一万円足らずの工賃、児童手当位のもので、原告方には見るべき資産がなく、かつ原告は昭和四九年八月末ころに原動機付自転車に乗っていて自損行為による交通事故のため左大腿骨を骨折し、翌五〇年春ころまで働けず、生活保護や他からの借用金で生活していた状態であったから、本件事故後も経済的には困窮し、その主張のとおり前記普通預金口座の預金不足から電話の自動振替を謝られたり、また、高利の金融を受けたりしたこと。

3  原告は法律的な知識に乏しく、本件事故に基づく損害賠償請求についても専門家等に相談せず、日動火災を頼りにしていたところ、後遺症もほぼ症状固定した昭和五〇年一〇月ころから、甲野から同会社の支払金はそろそろ限度額に来たので、あとは自賠責保険の後遺障害補償費だけだと言われ、その旨および示談書に署名捺印しなければ同保険金の支払は受けられないものと信じており、甲野も右事情を知っていたこと。

4  乙第四号証(示談書)の不動文字および原告、被告木本の各署名捺印以外の記載部分は甲野が手書きし、前記保険金の請求手続も同人が原告が示談書に署名捺印後、千代田火災に対し代行して行っていること。

5  甲野は本件事故の際の原告の過失割合を二五%とみて示談額を算出したものであるが、原告の後遺症に基づく損害について、その将来の逸失利益を労働能力の喪失率四五%に副う減収があるとしたが、その喪失期間を四年間しか見ず、年五分の割合による中間利息を控除する年別ホフマン計算法により、月収額二〇万円を基礎とし、三八四万九、一二〇円と算定し、また、後遺症に対する慰藉料は二〇二万円と算定し、その合計額五八六万九、一二〇円につき二五%の過失相殺による減額をして同損害についての賠償額を四四〇万一、八四〇円と算出していること。

(三)  右認定の事実によれば、被告両名の代理人甲野は、経済的に窮乏の状態にあった原告の少なくとも法律的な無知を利用して同人と本件示談をなしたものであり、右示談額一、一五二万四、〇〇五円と当裁判所が算定した原告の前記債権額一、六七三万六、二三八円との差額は五二一万二、二三三円であるが、右示談額のうち自賠責保険金五〇四万円を除く六四八万四、〇〇五円中四四四万八、五四〇円は治療費および付添看護費であり、また、後遺症に基づく将来の逸失利益につき、甲野が原告の労働能力の喪失率を四五%とみてそれに副う減収があるとしたのは正当であるとしても、その喪失期間を四年間しかみなかったのは、後遺症の部位、程度等に対照して明らかに短かきに過ぎ、また後遺症に対する慰藉料額二〇二万円も少額に過ぎるきらいがある。そして、後遺症に基づく損害について当裁判所は原告の将来の逸失利益一、〇三四万一、六九五円、慰藉料四〇〇万円として、過失相殺による減額を二五%として、債権額を一、〇七五万六、二七一円と算定したが、示談額のうち後遺症補償分五〇四万円は前記算定額の半額に満たず著しく低額であるといえ、かつ、本件示談は後遺症状固定前後の損害を総括して本件事故に基づく全損害についてなされたものであり、後遺症による損害の賠償額の算定、約定部分は右示談の重要部分を構成しているといえる。

そうだとすると、右示談は公序良俗に違反し、民法九〇条により効力を生じないので、右示談にかかわらず、原告は被告両名に対し本訴請求をなすことを妨げられないというべきである。

六  そして、本件事案の内容、訴訟経過、その難易度、前記認容額等を勘案すると弁護士費用は五〇万円が相当であると思料される。

七  以上の次第で、被告両名は各自、原告に対し、残債務および弁護士費用合計金五七一万二、二三三円およびこれに対する本件事故発生日の翌日である昭和五〇年九月二日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、原告の被告両名に対する本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余の請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担および仮執行の宣言につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項、一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 片岡安夫)

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